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第1回 マルチペンとは
■ マルチペンとは

英語ではMulti Function Pen。日本では多機能ペンと呼ばれる、1本の筆記具に2種類以上の筆記機能を備えた製品を言います。ボールペン+シャープペンシルなどのように異なる筆記機能が備わったものを主に示すことばです。ボールペンばかり複数備わっているものは多機能ペンと言うよりは「多色ボールペン」と呼ばれる場合が多いと思います。

1本に複数の筆記機能を収めるため、マルチペン内部には通常よりも小型のボールペン替芯やシャープペンシルの機構部品が装備されています。これらの機構部品を使い手の操作によって選択し、ペン先から替芯を繰り出して使います。

■ マルチペンの長所

マルチペン1本あればボールペンにもシャープペンシルにも使え、出張などで便利です。また、マルチペンに使われているボールペン替芯をスタイラス(樹脂製のペン先を持つ替芯)に付け替えれば、PDA(携帯型端末)や携帯ゲーム機など、画面タッチ式入力のペンとして使用できます。

PDAや携帯ゲーム機には標準で小さいスタイラス・ペンが装備されていますが、普通の筆記具サイズのスタイラスペンならば手にしっかりと持って正確なタッチ操作が可能となります。良いスタイラスを使いたいというユーザーからのマルチペンのニーズは少なくありません。

もうひとつは、多くのマルチペンに使われている替芯が各社似たような外形寸法であり、相互に取り換えができる可能性があることです。ペン先の線幅やインクの性質が微妙に違う、各社の替芯を試すことができます。ただしメーカー間の替芯交換には注意すべき事項もあります。これについては後述します。

■ マルチペンの短所

便利なマルチペンですが、短所もあります。まず替芯の大きさが小さいため、ボールペンについては中に充填されているインクの量が少なく、替芯1本あたりの筆記可能距離は少なくなります。また一般に、替芯を繰り出す機構から、筆記時におけるペン先のがたつきが大きかったり、製品によってはペン先が軸に対して斜めに出てくるなど、筆記感覚に敏感な人には受け入れられない場合もあります。このあたりは製品設計の良否によって程度に違いがありますので、いろいろ調べてみてください。

マルチペンに収容されているシャープペンシルは、機構部品が小型のため耐久性や耐筆圧性能に弱い、あるいは芯折れしやすいなど一部に完成度の低いものも見受けられます。

以上の長所と短所それぞれを理解して使いこなしていただけたらと思います。

■ 替芯の互換性

前述のとおり、マルチペンの一部の替芯にはメーカー間で多少の互換性があるとご説明しました。それは主に下図に示すような外観、金属素材の替芯です。

・全長67.0(+0.3,-0)mm
・チップ外径2.35(+0.05,-0)mm
・パイプ外径2.35(+0,-0.05)mm 前後の替芯。
ただしご注意いただきたいのは、これら替芯は各メーカー間が取り決めをして同じサイズに規格統一しているのではなく、いろいろな成り行きから似たようなサイズをそれぞれが勝手に採用しているだけであるということです。簡単に言えば、似たサイズでも互換性は保証されていないということです。最近は海外の工業規格であるISO準拠をうたった替芯もありますが、米国の一部のメーカーではISO準拠と記載されているのに、いい加減な寸法の替芯もありました。

下記は当店で取り扱っている替芯をいくつか実測したものです。
替芯はそれぞれが1/100mmミリ単位で大きさの相違がありました。
当店で扱っている替芯は「パイプ径」の差が出ないように留意しています。

A社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.35mm/2.30mm
B社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.28mm/2.30mm
C社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.32mm/2.32mm
D社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.33mm/2.33mm
E社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.29mm/2.32mm
E社替芯: チップ外径/パイプ外径 2.35mm/2.30mm

(外径測定は一般のノギスでは困難で、マイクロメーターを用います。)

これら替芯の寸法差に対して、マルチペン側の作りがどれだけ「寛容」であるか、そこが互換性最大のポイントとなります。P社のマルチペンはどんな替芯も装着できるのに、Q社の製品は少しでもパイプ径の大きな替芯を装着すると替芯を固定する部品が曲がってしまい、それ以降純正の替芯が装着できない(固定できず抜けてしまう)症状に陥るなど、結果に差が出るというものです。

あるいは、替芯の装着には問題が無くとも、チップ(先端側)の寸法/形状や部品の継ぎ目位置の相性等で、ノックボタンを押しても替芯がスムーズに出てこない・リリースしても替芯が収納されない・内部の別の部品と干渉する等の症状を当店では経験しております。

■ まとめ

複数の筆記種を使い分けられる便利さ。あるいはタッチペン入力タイプのPDAや携帯ゲーム機を使いやすくするために、マルチペンは一定の役割を果たしています。頻度は少ないものの、内外のメーカーからは新しいアイディアを盛り込んだマルチペンが登場しています。マルチペンは今後筆記具のジャンルのひとつとして確立し、活躍の場面を広げてゆくことでしょう。


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